
2026/05/28
TEDxKeioU実行委員会は、エンワールド・ジャパン株式会社の代表取締役社長 山本裕介様にインタビューを実施しました。
同社は、日本最大級のハイクラス/グローバル人材に特化した人材紹介会社です。外資系企業・日系グローバル企業・スタートアップ企業のミドルからハイクラスのポジションの採用・転職支援を専門としています。正社員、エグゼクティブ人材紹介、プロフェッショナル人材派遣、採用代行サービス(RPO)を通じ、あらゆる方面から採用や転職に関する支援を行っています。
また、“Enabling Success ― 人と組織の可能性の最大化と未来共創”をミッションに掲げ、転職や採用の達成のみをゴールとせず、転職希望者と企業に寄り添いながら中長期な視点でコンサルティングを行っています。その姿勢は、キャリアの伴走者として多くのプロフェッショナルや企業から厚い信頼を集めています。
今回のインタビューでは、Enabling Successへの想い、多様性に富んだ企業文化、AI時代における「人の価値」について伺うとともに、山本様が歩まれてきた軌跡や、これからの時代における働き方・キャリアのあり方についても掘り下げてお聞きしました。
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松本: エンワールド・ジャパンが掲げているEnabling Successについて、詳しく教えてください。
山本様: Enabling Successはエンワールドのミッションです。私たちが目指しているのは、単に転職を成立させることではありません。転職希望者が入社後に中長期的に活躍し、企業の成長にもつながるよう支援する、それがEnabling Successの本質です。
だからこそ、転職を希望される方と「そもそも転職すべきかどうか」という議論に立ち戻って転職以外の選択肢を考えることもあります。対話を重ねた結果「今は転職しないほうが良い」という結論に至ることもあります。
私たちは、転職を一時的な「点」ではなく、人生という長い「線」の中にある一つの通過点として捉えています。転職はゴールではなく、その方が目指す姿を実現するための選択肢の一つです。だからこそ、ご本人の価値観やありたい姿を丁寧に言語化しながら、ご自身ではまだ気づいていない可能性や選択肢も含めてご提案できるようご支援しています。
松本: 山本様は、前職のテック業界で16年間ご活躍された後、エンワールド・ジャパンの代表に就任されました。テック界の巨人を離れ、この「人材」という人間味あふれる業界を選ばれた背景には、どのような想いがあったのでしょうか。
山本様: 実は、私自身の転職活動における体験が大きく関わっています。転職というのは企業にポジションのニーズがあり、その仕事を求める方がいて初めて成立します。しかし、その枠組みだけで考えると、どうしても「A社、B社、C社のポジションの中から選ぶ」という形になりがちです。
一方で、そうした“ポジション起点”の進め方だけで、本当にその方にとって最良の選択肢にたどり着けるのか、疑問を感じていました。
私自身も転職活動をしていた際、「自分が本当に実現したいことは何なのか」「目指したい姿はどこにあるのか」、さらには「そもそも自分はこの先何がやりたいのかを理解できているのだろうか」と考えたことがあります。
実際には、転職をするべきタイミングなのか、どのようなキャリアを描きたいのかを、じっくり考える機会がもてていない方も少なくありません。また、自分自身を客観的に見つめることの難しさも感じる方も思います。だからこそ私たちは、その方が抱えている課題や、ありたい姿を丁寧にヒアリングし、ご自身の選択肢を正しく理解いただいたうえで、意思決定していただくことを大切にしています。結果として、転職を選ぶにしても、現職を続けるにしても、納得感を持って意思決定をすることを大切にしていただくことが、その方や企業にとっての成功につながると思っています。
松本: 貴社のもつカルチャーや価値観について教えてください。
山本様: 当社には現在24か国の国籍を持つ社員が在籍しており、社員の4人に1人が外国籍です。言語や文化的なバックグラウンドも非常に多様ですが、私たちは「多様な人がいる」というだけでは不十分で、そこにインクルージョン(包括)が伴って初めて多様性は価値になると考えています。
松本: インクルージョンを実現するために、現場ではどのような取り組みをされているのでしょうか。
山本様: 例えばAmbassadorという、有志のグループがあります。新卒社員からシニア社員、外国籍社員から日本人社員まで多様なバックグラウンドを持つ社員が集まり、縁日、ハロウィン、Thanksgiving、クリスマス、書初めなど、さまざまな文化を体験できるようなイベントを企画しています。イベントを通じてお互いを理解し合うきっかけをつくり、それぞれの多様なバックグラウンドがより活かされる環境づくりを、DEIの視点を取り入れながら進めています。
また、当社のコミュニケーションはポジションに限らず非常にフラットです。新卒社員でも全社に関連する新しい企画のオーナーを担うこともありますし、年齢、経歴、ポジションに限らず、誰でもさまざまなチャンスにアクセスできる社風です。良いと思ったこと、改善した方がいいと思ったことはオープンに会話しますし、すぐできることは時間を置かず実現するようにしています。こうした文化を象徴する出来事として、印象的なエピソードがあります。
毎週金曜、メンバーが成果を上げた際、シャンパンを贈って祝うという習慣があるのですが、ある日「アルコールを飲めない人にとっても、よりインクルーシブなお祝いの形があってもいいのではないか」という声が上がりました。そこですぐに社内で総務とマーケティング部門が連携し、シャンパンに加えて、ロゴ入りのオリジナルグラスも選択できる形へと変更しました。
組織が良くなるのは、例えば自分のような組織のリーダーが大きな改革を行ったときだけではありません。こうした日々の小さな気づきの積み重ね、いわば「小さな改善の積分」が、結果として企業文化を形づくっていくのだと思っています。
意思決定の場でも「誰が発言したか」ではなく「どのような提案であるか」をフラットに捉えることを大切にしています。私自身の考えが、必ずしも最適解とは限りません。組織は常にフラットであるべきだと考えています。なぜなら、社会は多様であり、その中にいらっしゃるお客様も多様であるからです。その方々に最高の価値を届ける我々も多様であるべきだと信じているからです。
松本:そうした日々の積み重ねやフラットな組織文化が、実際の意思決定にも大きく影響しているのですね。組織として意思決定の質を高めていくうえで、どのような点を重要視されていますか。
山本様: 組織における最大のリスクは、意思決定が誰かの独断で進み、その結果お客様のためにならないことが起きてしまうことです。世の中は多様で、私たちの外の世界も多様性に満ちています。そうした世界に向き合うためには、私たちの組織に多様性がなければ社会やお客様を本当の意味で理解するのは難しいと思っています。だからこそ、一人ひとりが多様であり、それぞれが「本当の自分」を出せる環境が重要です。
多様な人が自分らしさを持ち寄り、異なる意見でも率直に議論ができること。そうした環境づくりは、カルチャーにとどまらず、実はビジネスにも直結していると考えています。
松本: 昨今のAIの進化について伺いたいと思います。テクノロジーが進化し、マッチングの自動化が進む中で、これからの人材業界における「人の価値」はどこにあるとお考えですか。
山本様: 私は前職で、AIの最前線にいました。AIによって効率化は確実に進みます。これまで100時間かかっていたものが1時間でできるようになった時、残りの99時間でどのような価値を生み出すのか、そこを考えるのが「人」の役割だと思っています。
在主流となっているAI(主にLLM)の本質は、過去のデータをもとに最も確率の高いアウトプットを生成するものです。確率的・論理的な正しさに収れんしていくため、アウトプットには本質的な「差分」が生まれづらい構造です。そこには経済的な価値の差分がほぼない状態です。だからこそ重要なのは、「誰のどういう課題を解決したいのか」という構想を人が持つことです。計算可能な領域はマシンが得意ですが、その先の世界を構想するのが人の仕事です。
松本: AIが得意とする正しさと、人間が担うべき役割は明確に違うということですね。
山本様: その通りです。AIによるマッチングは「過去の積み重ねから導き出す正しさの確率」 に基づきます。スキルと求人をロジックで機械的にマッチさせることはできます。しかし、人が惹かれるのは、実は正しさよりも「面白さ」だと思うのです。例えば、「年収が下がっても、この環境で挑戦したい」という決断。これはロジックだけで考えれば「損」かもしれませんが、人にはロジックで割り切れない想いがあります。
もし、人が完全にロジックだけで動くのなら、誰もリスクのある選択はしないはずです。しかし、実際には人は直感や想いで意思決定することも多いのです。人はロジックだけでは動いていないのです。そして「面白さ」とは、不確実性が高いということでもあります。難しいことにチャレンジしたい、できるかわからないけどやってみたい。こうしたモチベーションを汲み取るのはやはり人です。
松本: 「正しさ」を超えた「面白さ」こそが、人の領域であると。
山本様: そう思います。予測できないボラティリティ(変動)の中で、転職を希望する方に「自分はどうしたいか」という構想を持っていただくこと。そして仮にAIから「その仕事はあなたに向いていないかもしれません」と示されたとしても、「それでもチャレンジしたい」と決断する転職希望者の熱意に向き合うこと。コンサルタントは、転職希望者や企業が想像していない選択肢の外側にある可能性を提示し、論理だけでは説明しきれない想いに寄り添います。この「ロジックの外側」にある調整しがたいことにこそ、私たちの介在価値があるのだと思っています。
松本: 最後に、これから社会に出る学生へのメッセージをお願いします。
山本様: 実は、私は新卒の時にいわゆる就職浪人を経験し、落ち込んだことがありました。しかし、今振り返ると、その空白の1年間があったからこそ、「自分は何を大切にして働きたいのか」「自分はどんな時に楽しいと感じるのか」をじっくりと時間をかけて言語化することができました。それが今につながっています。
皆さんには、企業が大切にしていることだけでなく、自分自身が何を大切にしているのか、自分のエネルギーが湧き上がる「源泉」を大切にしてほしいです。
松本: 周囲の期待や社会的な「正解」ではなく、自分の内側から湧き出る声ですね。
山本様: そうです。やりたいことを10個持つ必要はありません。本当にやりたいことに絞って、その代わり、誰よりも高い熱量でやり切ってください。
社会に出れば、理不尽なこと、壁にぶつかる場面は必ずあります。でも、自分の熱量を意識しながらその先に「面白いこと」が待っていると信じられれば、それは乗り越えられます。自分が心から面白いと思えて、成長でき、社会にインパクトを与えられることを見つけ、ぜひ挑戦してほしいと思います。その視点で選んだ方が、結果的に良いキャリアにつながると私は信じています。
【編集後記】
転職を点で捉えるのではなく、人生という長い線の中の通過点として捉えられている姿がとても印象的で、丁寧なヒアリングを通じて、転職そのものに限らない最適な提案を行い、Enabling Successを実現していく姿勢に深く感銘を受けました。また、AIとの関わり方について、「どのような問いを立てるのか」が重要になるというお話にも強く共感いたしました。どのような世界や未来を構想したいのか、そしてロジックを超えた「面白さ」を追求する姿勢を持ち続けることの大切さを改めて実感しました。大学生という貴重な期間を、心から湧き出るエネルギーを感じながら、充実したものにしていきたいと思います!
お話いただいた山本様、貴重なお話をお聞かせ下さり、誠にありがとうございました。ご対応いただいた在田様、佐久間様にも重ねて御礼申し上げます。
TEDxKeioU実行委員会 Member of Partner Division 松本真聖