クラウドとAIで未来に挑み続けるFIXERの “Inter-Change” 【株式会社FIXER様 Diamond Partner インタビュー】

クラウドとAIで未来に挑み続けるFIXERの “Inter-Change” 【株式会社FIXER様 Diamond Partner インタビュー】

2023/06/30

6月12日、TEDxKeioUは株式会社FIXER 東京本社にて、株式会社FIXER代表取締役社長としてグローバルに活躍されている松岡清一様へインタビューをさせていただきました。TEDxKeioUの今回のイベントのテーマである “Inter-Change”を踏まえ、FIXERの今後の展望、松岡様自身が大事にしていることなどを伺いました。

【プロフィール】
株式会社FIXER代表取締役社長 松岡清一様

【インタビュアー】
TEDxKeioU 小出・澁川
【記事編集・撮影】
山田・服部・澁川




アメリカでの知見をきっかけに


小出:まず、簡単にこれまでの経歴を教えてください。

松岡様:20代の時にシリコンバレーでスタートアップを立ち上げるプロジェクトに参加させていただきました。周りは僕以外全員アメリカ人だったのですが、一人でその場に出向いて、一緒に仕事をしました。アメリカとシリコンバレーに強い憧れがあったので、そのままグリーンカードを発行してもらい、アメリカ人になろうと思っていたのですが(笑)、やはり日本で働きたいなと思い帰国して、今に至るという感じですね。

小出:なぜ日本に戻ろうと思われたのですか?

松岡様:正直に言うと、アメリカに圧倒されました。日本にいた時は、自分は結構できる方だと思っていたのですが、ホンモノのすごい人たちに力の差を見せつけられ、圧倒されすぎて、どうしようかと思いました。2年間シリコンバレーでさまざまな経験を積んだ僕は、日本に戻ったのちそれまで行われていた日本独自の変な開発に対して、「アメリカではそんなことやってないよ」と、異を唱えました。いわゆる少し嫌なやつでした(笑)



小出:そうだったのですね、興味深いです。それでは早速、御社の展開されている事業について教えていただきたいです。まず最初にお伺いしたいこととしては、御社はクラウドを活用したサービス開発を行っている企業かと思いますが、「クラウドって何?」と思っている方もいるかと思いますので、クラウドとそれが提供する価値の本質について、教えていただければと思います。

松岡様:クラウドが無かった頃は、データセンターに自社のサーバーやネットワークを作り、自前のコンピューター設備を持ち、その中に自前のソフトウェアを作り、場を運用する、ということが行われていました。そこで、AmazonやMicrosoft、Googleと言ったグローバルに活躍する企業が、クラウド上で利用できるサービスの提供を開始し、現在FIXERでもそうしたクラウドサービスを活用し企業や自治体などに対してご支援しています。

 クラウドとは、Amazonが世界中のネットワークとサーバー上に持っていたECサイトをホームページサーバーなどに「間貸し」をするという発想から、サービスが始まりました。Microsoftも世界中にWindows OSのアップデートをするためのネットワークを持っていたので、同様に、「サーバーを貸すことで独自のシステムを動かす」というような「間貸し」が行われました。その後、会社全体の10%を超える売上となり、どんどんビジネスとして拡大しています。AmazonやMicrosoftが提供しているクラウドを活用するには専門的な技術が必要となるため、企業や自治体などのご要望をお受けし、クラウドネイティブなシステムを提供することがFIXERの行っていることです。

 FIXERの提供しているサービスの価値は、グローバル品質のクラウドを日本企業に提供できることです。国内で国産のクラウドを作っている会社はありますが、グローバルな視点から見ると、クラウドと呼べないものが多いんです。最近話題の量子コンピューターやChat GPTのようなAIをMade in Japanとして生成することも検討されていますが、色々な意味で技術的に性能が全く違うと思います。世界最先端で使われているものを、日本の自治体や日本の企業が武器として活用していくことが必須だと考えていますが、現状はまだ最大限利用できていないのも事実です。ですので、FIXERでは、世界で標準的に使われているAmazonやMicrosoftのクラウドをそのまま使ってもらうことを提供価値にしています。

小出:そのような松岡様のグローバルな視点は、実際に渡米されて学ばれたことですか?

松岡様:そうですね。渡米した際に、アメリカでのITの発展や教育に触れ、グローバルな視点を身に付けることができました。例えば、アメリカでは小学校の授業でファイルやフォルダを使用することが一般的でしたが、私が小学生の頃はそれらの概念がまだ一般的ではありませんでした。このように、日本はITに対して少し遅れを取っていると感じています。グローバルに戦っていくためには、ITの力が不可欠です。日本企業も、世界レベルのITを駆使し、その中で強さを発揮することが求められます。私たちFIXERも、お客様がグローバルで戦えるように、最新のIT技術を提供することを目指しています。


FIXERの Inter-Changeとは


小出:FIXER様の戦い方は具体的にどのようなものでしょうか?

松岡様:IT業界には「発注者が優先され、受注者はその要求に従う」という風習が根付いていると思うんです。しかしながら、当社では技術的な観点から正確な情報を提供することで、お客様と共に成長することを目指しています。お互いにリスペクトを持ち、フラットな関係を築くことで、お客様と共に問題解決に取り組んでいます。常にお客様の視点に立ち、お客様のニーズに合わせた最適な提案を行うことを大切にしています。


小出:確かにそうですね。松岡様はFIXERの事業を展開される上でどのような考えをお持ちなのでしょうか?

松岡様:どのプログラミング言語にも「if文」というものがあり、ある条件が発生した場合にはある処理を行い、そうでない場合には別の処理を行います。しかし、人生や経営にはif文が存在しません。一度過ぎた時間は戻すことができませんが、過去の教訓を活かして私たちは未来を考えて行動することを大切にしています。

過去に起きたことは変えることができませんが、未来に向けて今から判断することができます。なので、できるだけ「未来から逆算して現在の判断をする」ようにしています。このような取り組みを続けることで、未来に対してより良い結果を生み出せると信じています。




小出:そのような未来を見据えて事業を展開されていく中で、「Microsoft Japan Partner of the year 2022」を受賞されたんですね。

松岡様:創業当時(2009年頃)は、「日本でクラウドを使う人はいない」と言われていましたが、「そんなわけはない。世界中で使っている技術を日本だけが使わないなんて、この国の未来はどうなるんだ」と思ったんです。日本企業も必ず使う未来が来るはずだと取り組んでいたら、みんなが使うようになった。自分の描いた未来を信じて取り組んだ結果、クラウドネイティブのリーディングカンパニーとして認知されるようになりました。

小出:とてもポジティブな考え方ですね。MicrosoftのPartnerになるまでに受けられた苦労などはありましたか?

松岡様:そうですね。まだみなさんがクラウドに対する実感値がなく、創業当初は信用のバッジもなかったので苦労しました。「なんでクラウドなの?」と聞かれて一生懸命説明しても、なかなか導入に踏み切っていただけないことも多かったですが、AWARDというバッジが付いたことで、信用してもらいやすくなりました。



世界一という未来を目指すために


小出:ありがとうございます。それでは、FIXER様が描かれている未来と、それに向けて取り組まれていることを、改めてお聞きしたいです。

松岡様:創業して3年で日本一になることを目指し、結果4年で日本一になりました。その後、世界 を目指し、2017年に米国MicrosoftからAWARDを頂きました。そこからさらに4年後の2021年に世界一クラウドネイティブなMicrosoft Partnerとなりました。日本企業がクラウドやAI分野で遅れをとっていると言われている中で、「日本企業のFIXERがクラウドで世界一になる」ことは必要なことでした。次にAIの分野で世界一になることを目標にしているのも、必要なことだと思っているからです。

 自分たちが思い描いている未来は、もう一度「日本を世界一の国にする」ことです。先進国の中でも、成長力が二十何番目と言われてしまってるこの時代に、もう一度国全体として世界一を目指すのも良いと思うのです。FIXERが目指しているのは、日本人の几帳面さや真面目さが良い意味で世界に輸出されてほしい、ということです。例えば、当社が提供を開始した「GaiXer(ガイザー)」は、今ものすごく話題になっているChatGPTに代表される生成型AIを活用したもので、メールやドキュメント作成を人間に代わって自動生成してくれます。


 導入に関しては様々な議論がされていますが、インターネットが普及し始めた時も「ネットワークに接続すべきか?」という議論が巻き起こりました。機械ができることは任せて、その分人間は「人間にしかできないより創造的なこと」に時間とエネルギーを費やすべきです。FIXERはその環境を提供していきたいと思っています。


 そうすると、日本人が本来持っている想像力やエネルギー、クリエイティビティなどが世界から尊敬されるものづくりに活かされると思っています。この未来が実現されると、人間は働いている時間を本当に生産的なことに費やすことができるようになるはずです。結果的に「日本企業が生み出すものは世界的にプロダクティビティ(生産性)が高い」と評価を得ること、それが今後のFIXERの展望 です。 

 


小出:たくさんの人がいろいろな未来を描ける社会が実現しそうだなと感じます。

松岡様:そうですね。あとは、もっと若者がのびのびと様々なことに挑戦できる社会にしたいと思っています。日本は長く続いた年功序列社会の影響で、若い人の活躍機会がまだまだ少ない。若者の決断やアイデアが選択され、活かされる世の中にしていかなければならないと考えています。

大学生にとって「未来を考える」とは


澁川:先ほど、未来を見て考えるとおっしゃっていましたが、未知を考えることは大変なのではないかと思います。未知を考える上で何かアドバイスはありますか?情報量の多い現代の就活など、どのように動けば良いか分からない中での自分との向き合い方や考え方などがありましたら、教えていただきたいです。

松岡様:おそらく、我々が社会人になったときよりも皆さんの方が先が見えない時代にいて、もっと大変だと思います。しかし、自分だけ先が見えていないのではなく、同級生や同時期に就活する人、先輩、自分より先に就職した人など、全員にとって同じ状況で、全員先が見えていないんです。全員未来が見えていない中でも、未来を正しく見ようとする人の方が勝率は上がり、ポジティブな未来が見えるのだと思います。

澁川:その未来から目を背けた結果が、他の人と同じように就活を行い、ある程度良い会社に就くことなのでしょうか?

松岡様:経営者として、常に個性を際立たせ、かつオンリーワンであり続けよう、他の会社と一緒にならないようにしよう、と思っています。クラウドの会社は今やたくさんありますが、競合はいないと私は言い切っています。比べても勝てない時は勝てないので、他と比べる発想ではなく、常に自分たちのベストを追求しています。たとえば、年間1000時間勉強をしたらなりたいものになれるとしても、実際に1000時間できるかどうかは自分次第ですよね。同級生が二年生なのに既に就活していると聞いて不安になるのではなく、自分は今何をしているのかを学生の人たちに見てほしいなと思います。まだまだ日本社会では、「他人と比較する・される」ことが多いかもしれませんが、「人と比べない自分」を作ることも大事。学生時代からそれを知っていたら、自分軸の人生を作っていけると思います。


澁川:自分の中でゴールが決まっているからそこに向かって走るだけで良い、ということでしょうか?

松岡様:そうです。少し余談ですが、そもそもゴールって何か知っていますか?これは社員にも教えるのですが、例えば、100m走では、出発地点が0mで、100m先がゴールですよね。ゴールというのは、その終了条件が発生した時にいる場所です。要するに、0mから100mまで走り、全員がゴールをしたときに、何秒で走り切ったかということです。100mを9秒台で走らなければゴールを達成できない人もいれば、20秒かかって走り切る人もいます。つまり、「目標というターゲットがあり、100m地点でその目標に対して何秒で走れたか?」ということです。多くの人は、ゴールとターゲットを曖昧にして生きていると思います。人生のゴールは死ぬことではなく、描いた目標にどれほど近づいたかですよね。そのゴールやターゲットを描けているかでゴールの意味も変わってきます。

澁川:ただやるだけではなく、その過程や完成度が重要、ということでしょうか?

松岡様:そうですね。



小出:松岡様は今まで様々な経験をされてきたと思いますが、FIXERとは違う部分で、ご自身が”Inter-Change”を感じられた経験はありますか?

松岡様:そもそも起業をしたこと自体がとても大きなInter-Changeだったかもしれないのですが、やはり自分のキャリアの中の一瞬一瞬が、図らずも大きなInter-Changeになっています。求められることに逆らわずにいたら、意外と様々なInter-Changeが勝手に起きていました。望んで転職することも良いことだと思いますが、一生懸命生きていたら、運命の人が自分を迎えに来てくれます。

 若い学生のみなさんに、僕自身が学生の時にクラウド会社の社長になりたいと思っていたのかよく聞かれるのですが、僕が若い頃はクラウドはこの世に存在していませんでした。ですので、学生の時はそれを想像することすらできませんでした。皆さんも同様に、今ある職業の中から自分の未来の姿が想像できたらそれでいいし、想像できないとしたら、もしかしたら未来のあなたは今まだない職業のスペシャリストになっている可能性があります。学生のうちに何かを見つけることができたら、それはそれで幸せですが、見つからなくても、その時その時を一生懸命生きていたらそれでいいのではないかと思います。

小出:ありがとうございます。それでは、先ほどのお話を踏まえて、今回のイベントへ参加する慶應生へのメッセージをいただければと思います。

松岡様:すでに自覚のある方もいらっしゃるでしょうが、慶應生だということは、ある種同世代の日本の大学生の中のトップ何%かにはいるわけです。その立ち位置をどう活かすかをしっかり考えて欲しいと思います。せっかく慶應大学に入ったのに、活かしきれないというのが一番もったいないと思うので、慶應生として過ごす学生生活を、その後どう活かすかを真剣に考えて欲しいです。慶應大学に入りたくても入れなかった人たちの上に学生生活を過ごしてる皆さんがいるので、卒業後にどのようにその立場を使っていくのかを、沢山考えてほしいです。



大学生にしかできないことを思い切り


澁川:個人的な質問ですが、大学生活をやり直せるとしたら、どのような生活を送りたいかなどはありますか?

松岡様:今思えば学生の時にしっかり勉強しておけばよかったと思うのですが、実際神様に学生に戻してもらったとしても、また遊ぶだろうな、とは思います。これも当社内定式でよく言うことなのですが、実際に働くことで勉強すべきことが見えてくるので、実は学生の時には何を勉強したら良いのかわかりません。ですので、欧米の「学び直し」というものがとても有効で、社会に出て自分の才能に気づくみたいなことがあるからこそ、もう一回学び直すことができます。なので、学生の間にしかできないことをしっかりやっておくことをお勧めします。僕は、初めて内定をもらった会社の先輩に、「入社前にホノルルマラソン走ってから入社しろ」と言われて実際に走ったのですが、本当に走ったのは自分だけだったみたいで。しかし、就職してから走るのは難しいので、そういうことです。(笑)



澁川:旅行とかはやはり学生ならではですよね。

松岡様:バックパッカーとか、貧乏旅行とか、社会人になったらなかなかやる機会がないですが、学生だったら全然許されますからね。学生の時にしかできないことにこだわると、後悔がないかなと思います。

澁川:夏休みはたくさん旅行します!

松岡様:海外に行くのはいいですよ。

澁川:お勧めの場所はありますか?

松岡様:できるだけ遠く行った方がいいんじゃないですかね。僕も学生の時に、なかなか行けなさそうなところに結構行っておいたので良かったなとは思います。ヨーロッパ、アメリカ、アジアは結構社会人なってからも行くチャンスがありますが、アフリカ大陸とかはなかなかないので、学生時代に行っておいた方が良いと思います。

【編集後記】
過去を一切振り返らず、ひたすら未来だけを見続けるといった松岡様の考え方は、私にとって新たな視点であり、現在の学生生活において必要なことだと思いました。身近な例と共に、大変分かりやすくご説明いただきました。この度は、お忙しい中長時間に渡りインタビューへご協力いただき、ありがとうございました。
TEDxKeioU Director of Partner Division 小出莉実